──お2人の出会い、そしてこれまでのお互いの印象というと?
石田 あれは砧スタジオでしたっけ。品川さんが挨拶に来てくれて、本を渡してくれてね。僕、帰って読んだんですよ。それで「あ、小説ちゃんと書ける人だな」と思いました。
品川 ありがとうございます! あれはもう…15年ぐらい前ですかね。番組収録でご一緒したときだったので。
石田 あとは“監督・品川さん”。お笑い芸人さんで映画撮る人はいっぱいいるけど、センス優先でアートを狙うとか、ちょっと変わった、尖った感性みたいなとこを攻めて創って…あまり面白くなかったりするでしょ(笑)。小説もすごく変な素材で書く人なんかもいるけど、やっぱりそういうのって、スベるんですよ。品川さんはそれに対して、商業映画の激戦区の中で正面から撮っている。それでちゃんと仕事を続けてるっていうのがすごいと思う。これからもぜひ頑張ってほしいですね。
品川 うわ、うれしいなぁ~。僕はもちろん先生の小説を何冊も読ませてもらっていますけど、僕が感じている魅力は、先生の小説は『IWGP』に限らず不良を取り上げてることが多い。僕も不良を題材にすることが多いので、そこに惹かれますね。しかも少し大人の匂いというか、裏社会にまで足を突っ込んでたり、不良小説なんだけどハードボイルドな台詞なんかが含まれていて、その男っぽさが読みものとしてかっこよくて! 台詞のやり取り、好きですねぇ。
石田 『太陽の季節』や東映の不良もの…もともと日本は昔からそういう“青春の暴走”みたいなテーマが、映画とか漫画とか小説ですごく大きなワンジャンルなんだよね。普遍的、エンタメの王道だから。そうか、品川さんはまさにそこを進んでるんですね。
──では『IWGP』舞台化に際して、今のお気持ちは?
石田 もうあれです、この小説は手離れした出来のいい子みたいな存在。どのジャンルにいっても「小説のエッセンスをうまく使いながら面白い作品にしてくれればいいよ」って感じですよね。実写化は基本、キャストと演出家と監督のもの。脚本は拝見しますが、とくに僕が出張っていくこともないし…原作者でもコントロールマニアの人ってだいたい失敗してますから。奥さんと作品はコントロールできないもんなんですよ、絶対(笑)。
品川 (笑)。今回は僕が脚本を書いていないっていうのもあって、まずは脚本を読み解くところから始め、ちょっと手を入れさせてもらいつつ、それこそドラマともアニメとも違うもの、なにかしら演出の手法で魅せられて、舞台映えするものは…というところからプランを考えて。で、柱にしたのがラップとアクションとダンス。カラーギャングと相性がいい。舞台のお仕事はこれが初めなので僕の中の少ない舞台情報の中ではありますが、舞台であまり観たことない感じ、喧嘩をラップで表現したいとか、そういうイメージで固めています。石田先生の原作があり、アニメ化作品を踏まえて脚本家の毛利(亘宏)先生が書かれた脚本。そのすべてを踏襲し、さらに色濃くしていくのが受け取った僕の役割。台詞の一言から「このほうがもっと効いてくる」と、舞台映え主義でジャッジしてますね。
石田 いいと思いますよ。観に来てくれるのも若いお客さんですよね。僕、接点ないんだよなぁ。
──小説を読んでくださっている方もたくさんいらっしゃると思います。
石田 小説は気が進めば読んでくれればいいぐらいで(笑)、やっぱりこれは舞台なのでね。今回は…うん、これはちゃんと書いといてもらいたいね。アニメがあっての2.5次元舞台ってところもあるので、イケメンの俳優さんがたっぷりいますから。まずは若い役者さんの弾けるスパークみたいなところを、ぜひ劇場に観に来てほしいですね。
品川 そこは一番大きいですね。せっかく生の舞台なんで、若い子の熱を煽って「とにかく上げていけ」「どんどん上げていけ」って言い続けてます。
石田 品川さんが素敵な役者さんたちの手綱をギューっと引いて……。
品川 物騒な感じになってます(笑)。そう、2.5次元で活躍する役者が揃っているからこそ、なるべく2.5次元っぽい見せ方を外すっていうのも狙いどころのひとつではあって。ゴリゴリにラップをやらせて「オラ~ッ!」とか言わせてる。若くてかっこいい子にいかに面白いものをやらせるかってところですね。
石田 なるほど。いや、大事だよ。やっぱり綺麗でかっこいい人を見るのって最強だし、そういう若い子の持ってる爆発力とか新鮮さをね、うまく吸血鬼のように吸って(笑)、面白い演劇を創る。楽しい仕事じゃないですか。
──稽古もそろそろ佳境ですね。
品川 稽古場はね…僕、『池袋ウエストゲートパーク』みたいなことがずっと行われているって思うんですよ。
石田 へえ、面白いね。
品川 たとえば役者の気持ちとして、演劇だけど2.5次元って狭いジャンルに括られていることへのくやしさとかって少なからずあると思うし、あと「なんで俺のほうがあいつより番手が低いんだ」とか「台詞が少ないぞ」とかって、絶対あると思うんですよ。俺はそれをやたら言ってるんです。「そう思え」って。もっとできる、もっと上に行きたい、と。「芝居するときは主役の人を喰うつもりでいきなさい」「自分が主役だと思ってやってね」。で、主役の人はそこに絶対に負けない、それがまさに座長だし、キングだし、さらには「この舞台で人生変えたいと思わないのか」って言ってる俺は、もうマコトみたいなもんだし。
石田 いや、面白いね。なんだろう…もうただ僕たちは1人の人間として壮大な人生の椅子取りゲームの中で、よりいい椅子に座りたいだけなんだけど…それがね、こんなふうに明確に感じられている。いい花火を上げた人が勝つわけだ。
品川 そしてそこに「友情」がある。最初から友情、仲よくだと、やっぱ面白くないじゃないですか。途中ギスギスしてもいいから、終わったときに「いやぁ楽しい舞台だったね」って友情が芽生えるのがすごく物語的なので。「今のはお客さんに見せられる状態。ここから見せたい、友達や家族に見せたいっていうレベルまで上げていきましょう」とか、そういうもう…精神論みたいな世界。そんなの全部含めて、まさに小さい『池袋ウエストゲートパーク』が稽古場の中で繰り広げられているんです。
石田 本番、僕自身も楽しみにしています。今日話していろいろと引き出しの深さがわかったので、早く品川演出の粋を見たいですね。
──ちなみに2.5次元舞台というジャンルは先生から見てどんな印象ですか?
石田 BLとか2.5次元とか、今はもうカルチャーのサブジャンルじゃないんだよね。BL出身の人が直木賞候補になるようになったし。だから、そういうことなんじゃないかな。好きな人が好きなものを愛でるのが今の文化。でも逆に言えばメインストリームもなくなったよね。メインもサブもないカルチャー、ちょっと今、荒野みたいなところで僕らは創作しているんですよ。だから『IWGP』もね、もし次にやるとしたらって、ちょっと新しいアイデアを考えたんだよね、心の中で。もう20年前のやつを今やったほうが面白いなと思って。折りたたみ式の携帯電話を持っていて、お正月に「ああ、どうしよう。パソコンも電話もみんな壊れちゃう」っていう2000年問題のとこから始めてあの辺の1年間を描いたら、今、めっちゃ面白く読めるなと思うんだけど。
──確かにノストラダムス後の空虚感と2000年問題。そこから世の中の“気”がちょっとずつ停滞していった感覚はあります。
石田 あるある。ひとつはエンタメがもうぐるりとひと回りして、全ジャンルが書き上げられたんだよね。だから新しく「面白い」と言われてるものって、昔のリメイクだったりする。設定なんか全部変わっても要はリメイクだから、「やっぱ新しいものはないよな」っていう諦めが今、一番大きいんじゃないかな。音楽だって、クラシックもジャズもロックも死んだじゃない。一回死んだものってどんなに頑張ってもゾンビしかできないから、素晴らしいゾンビ映画やゾンビミュージックが今、世界を回しているんですよ。小説なんてもうゾンビの塊(笑)。
品川 やっぱ完全にゼロからの新しいものって、それこそシェイクスピアがすでに…ストーリーは108通り、でしたっけ? もう物語のフォーマットは全部書いてるって言われてるくらいですし、確かにハリウッドの最新作を観ても「これって『子連れ狼』じゃん」「こっちは『七人の侍』」かって。
──それもまたゾンビ。
石田 でね、その中でもこういう仕事やってる僕らは、どうせならよりいいゾンビになりたいと思ってるだけだよね。
品川 ですね(笑)。だから…リメイクとはちょっと違うけれど、『池袋ウエストゲートパーク』を2.5次元舞台でやるっていうのは、今のエンタメの世界ではひとつの正解なのかもしれないですよね。
石田 なるほど。